ICC制裁へ抗議し、日本政府にはICCの活動を支持する態度をとることを求める会長声明
本年(2025年、令和7年)2月6日、トランプ米大統領は、国際刑事裁判所(ICC)を制裁対象とする大統領令に署名し、ICCについて「アメリカと、私たちの親密な同盟国であるイスラエルを標的にした非合法で根拠のない行動」をとってきたと非難した。この大統領令は、アメリカや同盟国の国民に対するICCの捜査に協力する個人とその家族に対し、経済活動やビザ(査証)の制限を課すことを内容とする。
これに対し、翌7日、ICCの赤根智子所長は声明を出し、「深い遺憾の意」を表明し、「ICC加盟国、法の支配に基づく国際秩序、そして数百万人もの(犯罪)被害者への深刻な攻撃だ」と非難した。
さらに同7日、ICCに加盟する79の国・地域が、大統領令は「深刻な犯罪が免責となる危険性を高めるものだ」との批判の共同声明を発表し、制裁により現在進行中の捜査が阻害されるだけでなく、ICC職員や事件関係者の安全が脅かされると訴えた。声明-には英国やフランス、ドイツ、カナダなどが名を連ねている。しかし、ICCへの最大の資金拠出国(外務省によれば分担率約15.4%(2024年)。2024年の予算に対する拠出額は約36.9億円。)である日本は加わっていない。
一体何が起こっているのであろうか。
ICC(International Criminal Court:国際刑事裁判所)は、オランダのハーグに本部を置く、個人の国際犯罪を裁く常設の国際裁判所である。1998年7月に採択された国際刑事裁判所の構成、管轄犯罪、手続などを規定する国際条約「国際刑事裁判所に関するローマ規定」に基づいて設立された。日本は2007年10月に締約国となっている。ICCは、ある国の政府が、ある個人の戦争犯罪について捜査・訴追を行う能力や意思がない場合に、その国の政府に代わって捜査し、訴追し処罰することで将来において同様の犯罪が繰り返されることを防止することを目的としている。その管轄は個人の刑事責任に限られ、「集団殺害犯罪」、「人道に対する犯罪」、「戦争犯罪」、「侵略犯罪」などの国際人道法に対する重大な違反のみを対象としている。加盟国は本日現在124カ国・地域で、日本は2007年7月17日に加盟したが、アメリカ、中国、ロシア、イスラエルなどは加盟していない。現所長の赤根智子氏は日本の最高検察庁検事・国際司法協力担当大使であった人物であり、日本からはこれまで齋賀富美子氏、尾崎久仁子氏という判事が選出されており、日本は人材面・財政面で大きな貢献を行ってきた。これについて日本政府は、「日本は外交政策の柱の一つとして、国際社会における法の支配の強化を掲げ、紛争の平和的解決等を促進」するからだ、としている。
先のトランプ米大統領令は、ICCが2024年11月にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相らに逮捕状を出したことへの報復措置である。
ICCは昨年11月、ネタニヤフ首相に、パレスチナ・ガザ地区での戦争犯罪の疑いで逮捕状を発行した。同時にICCは、ガザでイスラエルと戦闘してきたイスラム組織ハマスの司令官に対しても逮捕状を出している。また、2023年3月には、ロシアが占領したウクライナの地域から多くの子どもたちがロシア側に移送されたことは国際法上の戦争犯罪にあたるとして、ロシアのプーチン大統領と子どもの権利などを担当するマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表の逮捕状も出しているのであり、設立の目的にしたがって行動している。
しかるに、米大統領令は、このようなICCの活動に反旗を翻すものである。
2月12日、岩屋毅外相は、記者会見で日本が共同声明に参加しなかった理由は明らかにしなかったものの「わが国は『法の支配』の徹底のためICCを一貫して支持している」と強調した。しかし、大統領令が発布された翌日の2月7日は、石破総理のトランプ米大統領との初会談の日であり、このことから、日本政府は米国との関係悪化を恐れて79カ国・地域の声明に加われなかったとの報道がある。
しかし、「法の支配」は政治に左右されてはならない。
日本国憲法は、前文で国際協調主義を謳い、第98条2項では締結した条約は誠実に遵守することを定めている。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律専門家団体として、国際社会において法の支配を担うICCの活動に対する支援を表明するとともに、実務家法曹としてなし得る協力を惜しまないことを表明する。そして、そのためにも、日本政府に対しては、国際的な法の支配の徹底のため、ICCの活動を尊重し、かつICCに対する非協力的な活動及び制裁の実施に反対する立場を表明することを、強く求めるものである。
2025年(令和7年)6月11日
岐阜県弁護士会
会長 小森 正悟
アーカイブ
- 2025年6月 (2)
- 2025年5月 (3)
- 2025年4月 (2)
- 2025年3月 (5)
- 2025年2月 (1)
- 2024年12月 (6)
- 2024年11月 (1)
- 2024年9月 (5)
- 2024年7月 (2)
- 2024年6月 (1)
- 2024年5月 (1)
- 2024年4月 (2)
- 2024年3月 (7)
- 2024年2月 (4)
- 2024年1月 (2)
- 2023年12月 (1)
- 2023年9月 (1)
- 2023年8月 (1)
- 2023年7月 (3)
- 2023年6月 (4)
- 2023年5月 (2)
- 2023年3月 (2)
- 2023年1月 (1)
- 2022年9月 (2)
- 2022年8月 (1)
- 2022年7月 (1)
- 2022年6月 (1)
- 2022年4月 (1)
- 2022年3月 (1)
- 2022年2月 (1)
- 2021年8月 (1)
- 2021年7月 (1)
- 2021年6月 (2)
- 2021年5月 (1)
- 2021年4月 (1)
- 2021年2月 (1)
- 2021年1月 (3)
- 2020年11月 (1)
- 2020年7月 (1)
- 2020年6月 (3)
- 2020年5月 (1)
- 2020年4月 (1)
- 2020年3月 (2)
- 2020年2月 (1)
- 2019年12月 (1)
- 2019年7月 (1)
- 2019年5月 (1)
- 2019年4月 (1)
- 2018年7月 (1)
- 2018年4月 (2)
- 2018年3月 (1)
- 2017年7月 (1)
- 2017年6月 (1)
- 2016年12月 (2)
- 2016年10月 (1)
- 2016年4月 (1)
- 2016年2月 (1)
- 2016年1月 (1)
- 2015年12月 (1)
- 2015年10月 (1)
- 2015年9月 (1)
- 2015年7月 (2)
- 2015年5月 (2)
- 2015年4月 (1)
- 2015年2月 (2)
- 2014年10月 (1)
- 2014年7月 (1)
- 2014年6月 (1)
- 2014年4月 (3)
- 2014年3月 (2)
- 2013年12月 (2)
- 2013年11月 (3)
- 2013年10月 (1)
- 2013年7月 (6)
- 2013年5月 (1)
- 2013年4月 (2)
- 2013年2月 (1)
- 2012年11月 (1)
- 2012年7月 (1)
- 2012年6月 (1)
- 2012年4月 (2)
- 2011年8月 (1)
- 2011年5月 (1)
- 2011年3月 (2)
- 2011年2月 (1)
- 2010年7月 (2)
- 2009年8月 (1)
- 2009年6月 (1)
- 2009年5月 (1)
- 2008年6月 (2)
- 2008年5月 (2)
- 2008年4月 (1)
- 2008年2月 (2)
- 2008年1月 (1)
- 2007年9月 (1)
- 2007年4月 (1)
- 2006年11月 (1)
- 2006年10月 (1)
- 2006年9月 (1)
- 2006年8月 (1)
- 2006年6月 (1)
- 2006年5月 (2)
- 2006年4月 (1)
- 2005年11月 (1)
- 2005年7月 (1)
- 2005年2月 (1)
- 2004年7月 (2)
- 2004年6月 (1)
- 2004年1月 (2)
- 2003年9月 (3)
- 2003年8月 (1)
- 2003年6月 (1)
- 2003年5月 (1)
- 2003年4月 (2)
- 2003年3月 (2)
- 2003年2月 (1)
- 2002年12月 (2)
- 2002年6月 (2)
- 2002年5月 (4)
- 2000年6月 (1)
アクセス
岐阜県弁護士会
〒500-8811
岐阜市端詰町22番地
TEL:058-265-0020
地図はこちら