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自動小銃による殺傷事件に関し、特定少年の実名等の公表及び推知報道を控えることを求める会長声明

2024.02.22

1 少年法第61条は、少年の氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等により当該事件の本人と推知できるような記事又は写真の出版物への掲載(以下「推知報道」という。)を禁止している。2022年(令和4年)4月1日に施行された「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)により、18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について公判請求(起訴)された場合に、推知報道の禁止が解除された(同法第68条本文)。

2023年(令和5年)6月14日に岐阜市の陸上自衛隊射撃場で発生した自動小銃による殺傷事件(以下「本件」という。)に関し、被疑者とされた当時18歳の少年について、本年2月19日、岐阜家庭裁判所は検察官送致決定をした。本件については近日中に岐阜地方裁判所に公判請求される可能性が高く、その場合、特定少年の推知報道が可能となる。

 

2 少年法は、少年が成長途中の未成熟な存在であることに鑑み、第1条において少年の「健全な育成」すなわち少年の成長発達の権利を保障する理念を掲げている。推知報道については、少年の名誉やプライバシー権を侵害し、少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰を阻害するおそれが大きいことから、第61条において事件の内容や結果の重大性の区別なく一律に禁止している。

前記少年法の改正にあたり、衆議院及び参議院の各法務委員会において、「インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることを踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならない」との附帯決議がなされている。改正少年法下において一部解除された推知報道についても、少年法の理念に鑑み、なお極めて慎重な姿勢が求められている。

 

3 本件はその事件内容から、捜査段階において過熱した報道が行われ全国的な注目を集めた。さらに今後、検察庁により実名等の公表が行われ、少年の氏名や容ぼうが報道されれば、少年の成長発達を大きく阻害することが強く懸念される。加えて、インターネット上で少年の情報が半永久的に閲覧可能な状態で残る。本件の注目度の高さゆえに、将来にわたって少年のプライバシー権や成長発達の権利は大きく侵害され、その更生と社会復帰に深刻な影響を生ずる現実的な危険があることは明らかである。

 

4 当会は、2021(令和3)年1月13日に「少年法改正に関する法制審議会答申に反対する会長声明」を発出し、推知報道禁止の一部解除について反対する立場を表明した。

本件については2023(令和5)年6月23日、捜査段階で行われた出版社による少年法第61条に違反する推知報道に対し、強く抗議し、少年法第61条の遵守を求める会長声明を発出した。また、同年7月10日には「特定少年の実名等の公表及び推知報道を控えることを求める会長声明」を発出し、特定少年が公判請求された事件であっても、少年法の理念に鑑み氏名等の報道を控えることを求めている。

 

5 当会は上記少年法の趣旨を踏まえ、少年の健全育成及び更生のため、検察庁に対しては、少年の実名等の公表を控えるよう求め、裁判所に対しては、期日簿の記載等を通じて特定少年の実名等が明らかになる事態を避けるよう、必要な配慮を求める。

あわせて、報道機関に対しては、検察庁が公判請求後に少年の実名等を公表するか否かにかかわらず、推知報道を控えるよう求める。そのうえで、その使命である公共情報の提供という観点から、少年事件の実名報道等にどれほどの意味があるかを振り返るとともに、少年法の掲げる健全育成の理念に照らし、少年および関係者の人権の保障に留意して報道を行うことを強く要望する。

 

 

2024年(令和6年)2月22日 

 

  岐阜県弁護士会 

  会長 神 谷 慎 一

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