佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA型鑑定での不正行為を強く非難するとともに、第三者機関による調査及び再発防止の体制構築を求める会長声明
2025年(令和7年)9月8日、佐賀県警察科学捜査研究所に所属する技術職員が、7年余りにわたり、DNA型鑑定で虚偽の書類を作成するなどの不正行為を行っていたことが明らかになった(以下、「本件不正行為」という。)。
佐賀県警によると、この技術職員が担当した632件のDNA型鑑定のうち、不正行為が確認されたものが130件あり、このうち、鑑定を実施していないにもかかわらず過去の別事件の鑑定資料を用いて実施したように装った虚偽の報告が9件、ガーゼ片などの鑑定資料の余りを鑑定後に紛失し新品を用意して警察署に返却するなどしたものが4件あったとのことである。このような規模の大きさからしても、佐賀県警科学捜査研究所においては日常的にかつ広範に不正行為が行われていたことが窺われる。
DNA型鑑定は異同識別の科学的手法であり、捜査及び公判において被疑者・被告人と犯人の同一性を立証するために用いられる証拠になり得るものである。DNA型鑑定が適正に実施されることは、無実の者が誤って処罰されることを防止するとともに、真犯人を発見して適正な処罰を実現するためにも重要である。DNA型鑑定が不正に実施されたことは、こうした真実の発見を著しく妨げる要因となりうるという意味でも、極めて重大な非違行為である。
仮に本件不正行為にかかるDNA型鑑定の結果が公判には証拠として提出されていなかったとしても、事件の受理、終局処分及び被疑者・被告人の身体拘束の判断などに影響を与えた可能性は否定できない。また、本件不正行為にかかるDNA型鑑定の結果を利用して取調べを行っていた場合には、取調べが違法と評価される可能性もある。本件不正行為は、都道府県警察が実施する科学鑑定に対する信頼を根幹から揺るがすものであり、当会は、これを強く非難するものである。
本件不正行為は、警察内部の監察及び検察官による指揮並びに都道府県公安委員会による監督では、鑑定に際しての証拠の偽造を防止することはできないという構造的欠陥を改めて明らかにしたものである。こうした監督体制の不備は、佐賀県警に限ってのこととは思われない。他の都道府県警においても、同様の不正行為が行われていることを強く懸念させるものであるといえる。
よって、当会は、法務省、最高検察庁、警察庁及び警察庁を管理する国家公安委員会に対し、中立的な第三者機関を設置した上で、本件不正行為が捜査及び公判に与えた影響を検証し、再審請求を行うなどの適切な措置を講じるとともに、本件不正行為を防止することができなかった構造的原因を究明し、再発防止策を策定することを求める。再発防止を徹底するためには、都道府県警から科学捜査研究所の機能を分離独立させ、技官を警察組織に属さない中立公正な機関の監督のもとにおく組織制度を構想し、所要の立法ないし法改正がなされるべきである。
また、不正行為による証拠の偽造を防止するとともに、再鑑定による検証を可能にするためには、犯罪捜査の記録の管理及び保管を義務付けるとともに全面的証拠開示制度を創設することが不可欠である。
しかるに佐賀県公安委員会は、第三者機関を設置しての調査すらしないことを発表しており、その不誠実な態度には失望を禁じ得ない。佐賀地方検察庁及び佐賀地方裁判所も、警察の内部調査に協力するのみで、不正の実態解明のための調査を求めることなどの意思表明をしておらず、同じ刑事司法を担う法曹の立場として極めて遺憾である。佐賀県弁護士会は、第三者機関を設置しての検証を求める会長声明を発出している。佐賀県議会も、第三者による調査を求める決議案を全会一致で可決した。これら意思表明は、本件不正行為について第三者性・公平性・中立性・透明性ある調査を求める趣旨であり、それらは極めて重いものとして尊重されるべきである。
2025年(令和7年)10月8日、本件不正行為について警察庁による特別監察が開始されたが、以下のとおり、警察庁の特別監察は警察組織内の手続に過ぎず、第三者機関による調査の必要性を否定する理由とはならない。むしろ、本件不正行為についてこのような内部調査のみで済ませようとするのであれば、それは佐賀県議会の本決議にも表れている民意を無視するものであり、捜査機関に対する国民の信頼をますます毀損することに他ならない。
すなわち、警察庁の行う監察に関する訓令(昭33.7.14警察庁訓令第14号)第2条2項は、「監察責任者は、その指名する職員(以下「指名職員」という。)に監察を行わせることができる。」と規定しており、特別監察が警察の職員による監察にすぎないことは訓令上明らかである。ここには第三者の関与が想定されず 、第三者性・公平性・中立性・透明性は期待できない。しかも、先の大川原化工機事件における警察内部調査の結果である検証報告書の内容も不十分であったことなど、警察組織による内部調査の限界は既に露呈している。このように、警察庁の特別監察は、公平中立な調査とは到底いえず、またその実効性も担保されないものである。
佐賀県警が頑なに第三者機関による調査を拒否し、相も変わらず上記のような内部調査のみで済ませようとすることは、事態を隠ぺいする姿勢の表れであるとの強い非難を免れ得ない。これに同調する佐賀県公安委員会に対しても同様の非難が妥当する。佐賀県警・佐賀県公安委員会による説明責任が果たされるためには、警察庁の特別監察では到底足りず、第三者機関を設置した上での本件不正行為の徹底的な検証が必須である。
当会は、本件不正行為の経過及び原因が公正中立な第三者機関の調査により完全に究明されることとともに、この調査を踏まえた再発防止の措置の徹底がなされ、ひいては刑事司法の信頼を回復、維持するための諸制度が整備されることを強く求める。
2025年(令和7年)11月11日
岐阜県弁護士会
会長 小 森 正 悟
アーカイブ
- 2025年11月 (1)
- 2025年10月 (1)
- 2025年9月 (1)
- 2025年8月 (1)
- 2025年7月 (3)
- 2025年6月 (3)
- 2025年5月 (3)
- 2025年4月 (2)
- 2025年3月 (5)
- 2025年2月 (1)
- 2024年12月 (6)
- 2024年11月 (1)
- 2024年9月 (5)
- 2024年7月 (2)
- 2024年6月 (1)
- 2024年5月 (1)
- 2024年4月 (2)
- 2024年3月 (7)
- 2024年2月 (4)
- 2024年1月 (2)
- 2023年12月 (1)
- 2023年9月 (1)
- 2023年8月 (1)
- 2023年7月 (3)
- 2023年6月 (4)
- 2023年5月 (2)
- 2023年3月 (2)
- 2023年1月 (1)
- 2022年9月 (2)
- 2022年8月 (1)
- 2022年7月 (1)
- 2022年6月 (1)
- 2022年4月 (1)
- 2022年3月 (1)
- 2022年2月 (1)
- 2021年8月 (1)
- 2021年7月 (1)
- 2021年6月 (2)
- 2021年5月 (1)
- 2021年4月 (1)
- 2021年2月 (1)
- 2021年1月 (3)
- 2020年11月 (1)
- 2020年7月 (1)
- 2020年6月 (3)
- 2020年5月 (1)
- 2020年4月 (1)
- 2020年3月 (2)
- 2020年2月 (1)
- 2019年12月 (1)
- 2019年7月 (1)
- 2019年5月 (1)
- 2019年4月 (1)
- 2018年7月 (1)
- 2018年4月 (2)
- 2018年3月 (1)
- 2017年7月 (1)
- 2017年6月 (1)
- 2016年12月 (2)
- 2016年10月 (1)
- 2016年4月 (1)
- 2016年2月 (1)
- 2016年1月 (1)
- 2015年12月 (1)
- 2015年10月 (1)
- 2015年9月 (1)
- 2015年7月 (2)
- 2015年5月 (2)
- 2015年4月 (1)
- 2015年2月 (2)
- 2014年10月 (1)
- 2014年7月 (1)
- 2014年6月 (1)
- 2014年4月 (3)
- 2014年3月 (2)
- 2013年12月 (2)
- 2013年11月 (3)
- 2013年10月 (1)
- 2013年7月 (6)
- 2013年5月 (1)
- 2013年4月 (2)
- 2013年2月 (1)
- 2012年11月 (1)
- 2012年7月 (1)
- 2012年6月 (1)
- 2012年4月 (2)
- 2011年8月 (1)
- 2011年5月 (1)
- 2011年3月 (2)
- 2011年2月 (1)
- 2010年7月 (2)
- 2009年8月 (1)
- 2009年6月 (1)
- 2009年5月 (1)
- 2008年6月 (2)
- 2008年5月 (2)
- 2008年4月 (1)
- 2008年2月 (2)
- 2008年1月 (1)
- 2007年9月 (1)
- 2007年4月 (1)
- 2006年11月 (1)
- 2006年10月 (1)
- 2006年9月 (1)
- 2006年8月 (1)
- 2006年6月 (1)
- 2006年5月 (2)
- 2006年4月 (1)
- 2005年11月 (1)
- 2005年7月 (1)
- 2005年2月 (1)
- 2004年7月 (2)
- 2004年6月 (1)
- 2004年1月 (2)
- 2003年9月 (3)
- 2003年8月 (1)
- 2003年6月 (1)
- 2003年5月 (1)
- 2003年4月 (2)
- 2003年3月 (2)
- 2003年2月 (1)
- 2002年12月 (2)
- 2002年6月 (2)
- 2002年5月 (4)
- 2000年6月 (1)
アクセス
岐阜県弁護士会
〒500-8811
岐阜市端詰町22番地
TEL:058-265-0020
地図はこちら



