「大崎事件」再審請求棄却決定に抗議する会長声明
鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、2022年(令和4年)6月22日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)について再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という)。
大崎事件は、1979年(昭和54年)、鹿児島県大崎町において牛小屋から遺体が発見されたことに端を発し、アヤ子氏、その当時の夫及び義弟が殺人・死体遺棄の、義弟の子が死体遺棄の罪に問われた事件である。アヤ子氏は一貫して無罪を主張したが、懲役10年の有罪判決を受け服役した。有罪の有力な証拠とされたのは、「共犯者」とされた3名の自白であった。
アヤ子氏が申し立てた第3次再審請求では、鹿児島地方裁判所において再審開始決定がなされ、即時抗告審においても検察官の即時抗告は棄却され再審開始の結論が維持された。特に、同即時抗告審は、「被害者」が帰宅した時点で死亡または瀕死の可能性があり、帰宅時の「被害者」の様子に関する近隣住民2名の供述が信用できない、それゆえ、「共犯者」3名の各供述の信用性に重大な疑義が生じると断じた。しかし、特別抗告審である最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)は、2019年(令和元年)6月25日、新旧両証拠の適切な総合評価を放棄し、新証拠に旧証拠を凌駕する高度の証明力を要求して、事実上、請求人側に無罪の立証責任を負わせるがごとき判示をして再審請求を棄却した。この棄却決定は、白鳥・財田川事件において最高裁自身が示したルール、すなわち、新旧両証拠の総合評価により確定判決の事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足り、再審手続においても「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を適用すべきであるというルールに反し、再審制度の趣旨を没却する不当なものであった。
2020年(令和2年)3月に申し立てられた第4次再審請求では、救命救急医の鑑定書、近隣住民2名の供述鑑定書が新証拠として提出された。これら新証拠は、それぞれの証明力が相まって、「被害者」が帰宅前に死亡しており、その後アヤ子氏らが「被害者」を殺害することはあり得ないことを明らかにするものであった。本決定の鹿児島地方裁判所は、2年足らずの期間で5名の鑑定人の証人尋問を行い、現地での進行協議期日を実施する等の積極的な訴訟指揮を行った。しかし、再び再審請求を棄却したのである。
本決定は、個々の新証拠の証拠価値を論難するばかりで、累次の再審請求審において多くの問題が指摘されてきた旧証拠との総合評価を適切に行わず上記最高裁決定の不当な判断に追従するものであって、到底是認できる内容ではない。当会は、本決定に強く抗議する。そして、一刻も早く、即時抗告審において再審開始を認める決定がなされるべきである。
アヤ子氏は現在95歳の高齢である。一刻も早く再審公判を開いて雪冤が果たされなければならない。当会は、今後、大崎事件の再審開始のために支援していく所存である。
2022年(令和4年)8月8日
岐阜県弁護士会
会長 御子柴 慎
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