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内閣による閣議決定のみに基づき一般予備費からの支出にて「国葬儀」を実施することに反対する会長声明

2022.09.07

1 はじめに

  政府は2022年7月22日、安倍晋三元内閣総理大臣(以下「元首相」という。)の「国葬儀」を日本武道館で本年9月27日に実施することを閣議決定した(以下「本件国葬儀」という。)。

    しかし、「本件国葬儀」については、以下のとおり、国の儀式として閣議決定を根拠に「国葬儀」を行うことが可能であるとする政府見解を疑問視する見解が多数存すること、閣議決定に基づき一般予備費からの支出にて「本件国葬儀」を実施することは財政民主主義の観点から問題があること、国の儀式として「国葬儀」を実施することは思想及び良心の自由の観点から少なからぬ問題があること、などの問題がある。

  よって、当会は、上記のような問題がある中、国会での審議がなされないまま、閣議決定のみに基づき一般予備費からの支出にて「本件国葬儀」が実施されることにつき反対をする。

 

2 閣議決定を根拠として「国葬儀」を行うことが可能との点について

  現在、「国葬儀」について規定した法律は存在しない。1926年に制定された勅令(国葬令)には国葬に関する定めがあったが、この勅令は「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律」1条に基づき失効している。

  この点、政府は、「閣議決定を根拠として国の儀式である国葬儀を行うことは、国の儀式を内閣が行うことは行政権の作用に含まれること、内閣府設置法第4条第3項33号において内閣府の所掌事務として国の儀式に関する事務に関することが明記されており、国葬儀を含む国の儀式を行うことが行政権の作用に含まれることが法律上明確となっていること等から、可能であると考えている。」とする。

  しかし、この政府見解は確定した法的見解というものではなく、多数の憲法学者から反対する声明が公表されるなど、政府見解について疑問視する声が多数存在する。

  また、「本件国葬儀」の実施の賛否については世論が大きく割れているところ、「国葬儀」について規定した法律が存在しない中、内閣による閣議決定のみによって国の儀式としての「国葬儀」の実施が決定されることは、行政の民主的コントロールの観点からすると問題が少なくない。

 

3 財政民主主義の観点からの問題について

  政府は、「本件国葬儀」に要する費用は国費で賄うとし、本年8月26日、2022年度予算の一般予備費から2億4940万円を支出することを閣議決定し、本年9月6日には、上記に含まれていない費用として、警備費を8億円程度、外国要人の接遇費を6億円程度とする概算額を公表した。

  この点、予備費は、予見し難い予算の不足に充てるための経費で、予算成立後において歳出に計上された規定経費に不足を生じたり、新規に経費が必要となったりした場合、その不足に充てるため、内閣の責任において支出できるものである。しかし、「国葬儀」の費用が予備費から支出された場合、「国葬儀」については、国会において、実施についての審議はもちろん、予算措置としての審議もなく、結局、国会における審議を経ることがないまま国費から支出がされることになる。

  確かに、憲法上、予備費の支出については、事後的に国会の承諾を得ることにはなっているものの、仮に、予備費の不承諾という憲法不適合な事態が生じても、これに対する憲法上の規定は存在せず、すでに行われた支出は有効であり、その効果には影響はないとされ、内閣の責任としても政治的責任にとどまる、と解されている。そのため、本件における予備費の支出に限らず、そもそも予備費のあり方については、財政民主主義や、国会の事前議決の原則の観点から疑問が呈されてきているところである。

  本件では、閣議決定を根拠として「国葬儀」を行うことが可能であるとの点について確定した法的見解は存せず、「本件国葬儀」の実施の賛否について世論が大きく割れている状況にあることからすれば、その費用支出については財政民主主義の観点から慎重な検討を要するところであり、閣議決定による一般予備費からの支出ではなく、国会での議決を経て補正予算を組むなど、国会の審議に付されるべきである。

 

4 思想及び良心の自由に対する不当な制約となるおそれについて

  日本国憲法は、第19条において思想及び良心の自由(思想・信条の自由)を保障している。

  政府は、「本件国葬儀」を実施する理由につき、元首相の在任期間・実績の程度・功績等を上げ、弔意を国全体として示すことが適切である、などと説明している。しかし、元首相の実績・功績等とされるものに対する評価は国民一人一人が自身の思想及び良心にもとづいて自由に行うべきものであるから、政府において、弔意を国全体として示すことが適切であるとして、国の公式行事として「本件国葬儀」を実施することは、それ自体が、思想及び良心の自由に対する不当な制約となるおそれがある。

  この点、政府は、

  ・ 国民一人一人に喪に服することや、政治的評価を求めるものではない。

  ・ 各府省庁や関係機関に弔意表明を求める閣議了解は行わない。

  ・ 地方公共団体や教育委員会などの関係機関に弔意表明の協力を要望する予定はない。

 とはしているものの、岸田文雄内閣総理大臣が務める葬儀委員長決定として、「本件国葬儀」当日、府省庁で弔旗を掲揚し黙とうすることが確認されている。また、現に、元首相の葬儀に際しては、公立学校等に半旗の掲揚を求めた自治体が複数存在したところであり、国の公式行事として「本件国葬儀」を実施した場合に、自治体の判断によって同様の要請がなされる可能性は否定できない。そのため、思想及び良心の自由が侵害されかねないとの懸念が払拭できないところであり、「本件国葬儀」の実施に関しては、より慎重な議論をすべく国会での審議に付されるべきである。

 

5 結論

 以上より、当会は、思想及び良心の自由に対する不当な制約となるおそれがあり、かつ、その実施の賛否につき世論が大きく割れている「本件国葬儀」につき、行政の民主的コントロール、財政民主主義等の観点から、閣議決定のみに基づき実施の決定がされ、かつ、国会での審議がないまま、閣議決定に基づき一般予備費からの支出がされることに反対をし、「本件国葬儀」についての国会での審議を求める。

 

2022年(令和4年)9月7日

岐阜県弁護士会

会 長   御 子 柴  慎

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