刑事再審手続に関する法制審答申に反対し、 議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明
法制審議会は、本年2月12日、「刑事再審手続に関する要綱(骨子)」(以下「要綱(骨子)」という。)を採択し、法務大臣に答申した。
しかし、その内容は再審法改正の本来の目的に反し、えん罪被害者の救済を迅速かつ実効的にするものとなっておらず、かえって今まで以上に困難にしかねない内容を含んでいる。
第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を設け、再審の請求を受けた裁判所が当該請求について調査した結果、「再審の請求の理由がないことが明らかである」と認めるときは、裁判所は事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却することを義務付けている。
過去の再審無罪事件では、再審請求後に裁判所が行う意見聴取や求釈明、裁判所の勧告を踏まえて行われる証拠開示等を通じて再審請求の理由が具体化・実質化され、再審開始・再審無罪に至る場合が多い。それにもかかわらず、「再審の請求についての調査手続」が設 けられた場合、調査手続の段階では、裁判所は証拠の提出命令を行うことが禁止され、再審請求人が無罪につながる証拠の開示を受けられないなど、再審請求人に対して十分な手続保障が与えられないまま、書面審査のみで再審請求が速やかに棄却されるおそれがある。
第2に、要綱(骨子)は、証拠開示について、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象を、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」であって、「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに限定している。
過去の再審無罪事件から明らかなとおり、無罪につながる証拠が捜査機関の手元にあるため、再審請求人や弁護人が主張立証を準備するために幅広く証拠開示がされなければならない。再審請求手続においては、裁判所の検察官に対する要請により幅広い証拠開示が行われ、その中から無罪につながる証拠が得られた例がいくつもある。それにもかかわらず、要綱(骨子)は、検察官に証拠開示義務を負わせる要件として再審請求の理由との関連性を求めているため、現行の実務よりも証拠開示の範囲が狭くなるおそれがある。
また、証拠開示制度がえん罪被害者のために機能するには、証拠開示請求の手がかりが得られるよう、検察官が保管又は保存する証拠の一覧表も開示される必要がある。しかし、要綱(骨子)によれば、裁判所が再審請求の判断をするために必要かつ相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人は証拠にアクセスすることができない。これでは、無罪につながる証拠の発見は極めて困難となる。
しかも、要綱(骨子)は、弁護人が検察官から提出を受けた証拠を謄写したときは、その証拠に係る複製等を再審の請求の手続又はその準備等に使用する目的以外の目的で他に交付、提示又は提供することを罰則をもって禁止している。しかし、再審請求又はその準備に必要な活動であっても、目的外使用にあたる可能性を懸念しなければならず、再審請求人や弁護人の活動を萎縮させるおそれがあり、えん罪被害者の救済を困難にさせる。
第3に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止(廃止)していない。
過去の再審無罪事件から明らかなとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立てそれ自体が、再審請求人にとって防御の負担や手続の長期化などの多大な負担を強いるものとなっている。そもそも、再審開始決定は、再審公判の開始を決定するだけであって、有罪・無罪の実体判断は再審公判において行うことが予定されている。そして、検察官は、再審公判において確定判決の正当性を主張することが可能であるから、再審開始決定に対する不服申立てを認めなくても不都合は生じない。それにもかかわらず、要綱(骨子)において、再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行うことを無制限に認めることは、えん罪被害者の速やかな救済を阻害するものである。ところで、本年2月24日、最高裁判所第二小法廷(裁判長 岡村和美)は、いわゆる「日野町事件」の第2次再審請求の特別抗告審につき、再審開始を決定した原々決定(大津地裁)に対する検察官の即時抗告を棄却した原決定(大阪高裁)に対する検察官の特別抗告を棄却し、再審開始を維持し、確定する決定をした。検察官の二度の不服申立てにより、原々決定から本決定まで7年7ヶ月を要しており、検察官の不服申立ての問題点が浮き彫りになったものといえる。
なお、取りまとめられた要綱(骨子)では、法整備の対象とされなかった事項について、運用で対応可能であるとして、多くの附帯事項を設けている。しかし、これらは単なる期待・要望に過ぎない上、「適切」な対応・判断等を求める内容にとどまり、具体性に乏しい。これらは、見直しが求められていた従来の実務運用を是認する内容に過ぎず、えん罪被害者の救済を迅速かつ実効的にするような運用は期待できない。
そもそも再審法改正が求められるようになったのは、無罪につながる証拠へのアクセスの制限や再審請求の審理の長期化という立法事実が明らかとなり、えん罪被害者の救済の必要性が高まったためである。「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が取りまとめた「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「議連法案」という。)は、その点を反映し、検察官保管証拠等の開示命令、検察官の不服申立て禁止を提言するものである。他方で、要綱(骨子)は、えん罪被害者の救済に逆行する内容となっており、再審法の改悪になりかねない。
岐阜県においては、2024年(令和6年)7月に岐阜県議会が「再審法の改正を求める意見書」を採択し、2025年(令和7年)9月25日をもって県内全市町村議会にて同旨の意見書が採択された。さらに、県内市町村における29の首長が上記意見書と同旨の賛同署名を提出している。いずれも、えん罪被害者の救済を実効あらしめる証拠開示制度の創設、再審開始決定に対する検察官による不服申し立ての禁止を中核とする再審法の改正を速やかに実現することを求めるものでああって、議連法案の内容と軌を一にするものである。
よって、当会は、要綱(骨子)に強く反対するとともに、議連法案のとおり速やかに再審法の改正を実現させることを求める。
2026年(令和8年)3月11日
岐阜県弁護士会
会長 小 森 正 悟
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