教育基本法「改正」に反対する声明
中央教育審議会(中教審)は、本年3月20日、教育基本法の「改正」について文部科学大臣に「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」と題する答申(最終答申)を行った。
教育基本法は、現憲法と同じ1947年に施行され、憲法の理想の実現を「教育の力にまつ」という理念に基づき、憲法に照らして教育がなすべきことと行ってはならないことを定めたもので、準憲法的な性格を持つものである。また、国際人権規約・子どもの権利条約(児童の権利条約)など、時代の進展や国際的な人権意識の向上にも十分対応できる法律である。従って、その改革には、その必要性を含め、十分かつ慎重な対応が必要である。
ところで中教審は、現在の教育現場に「いじめ、不登校、中途退学、学級崩壊」などさまざまな問題を解決するために教育基本法の見直しをするとした。しかしながら、最終答申は、「人格の完成を目指し、心身ともに健康な国民の育成を期して行われるものであるという現行法の基本理念を引き続き規定することが適当」である、つまり教育の「危機的状況」は教育基本法に原因があるのではないとしており、改正の理由は消滅したと言える。ところが最終答申は、現行法の基本理念に加えて「社会の形成に主体的に参画する『公共』の精神、道徳心、自律心の涵養」や「日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心の涵養」などを、新たな教育の基本理念として規定することが必要であるとしている。しかしながら、これらは個人の内心の問題であり、しかも意味内容もあいまいである。これらの理念が教育基本法に規定されれば、それが強制されることとなり、憲法で保障された思想・良心の自由を侵害するおそれがある。現に、国旗・国歌法の制定以後、学校現場や地域社会で「日の丸・君が代」が事実上強制されている現状がある。
また、最終答申は、男女共学に関する教育基本法第5条は削除するのが適当としている。しかし、学校教育の現状は、固定的性別役割分業意識や職業での差別分離を生じさせているなど、真の男女平等教育実現の観点からは数多くの問題があり、男女共学はよりいっそう推進されるべきであって、削除するのは問題がある。
さらに、最終答申は、教育振興基本計画の策定の根拠を教育基本法に設けることとしている。しかし、教育振興基本計画には学校教育・家庭教育・生涯教育など市民生活全般にわたって教育の在り方や内容についての施策が盛り込まれるのであり、教育内容に対する積極的な国家介入を可能にする道が開かれることになる。
現在の教育における問題は、教育基本法にあるのではなく、むしろそれに反する画一的な教育やエリート養成教育等にあるのであり、教育基本法の掲げる理念に近づける努力が引き続き必要なのである。今、教育基本法を「改正」する必要はないものといわなければならない。
当会は、こうした意味で、この最終答申には重大な問題があるし、教育基本法の理念を後退させる「改正」には反対であることを表明する。
岐阜県弁護士会
会長 河合 良房
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