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「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明

2014.10.14

1 はじめに
 先の通常国会から継続審議となっている「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)の審議が、臨時国会で月内にも再開されると報道されている。
 カジノ解禁推進法案は,その目的を,「特定複合観光施設区域の整備の推進が,観光及び地域経済の振興に寄与するとともに,財政の改善に資するものであることに鑑み,特定複合観光施設地域の整備に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに,特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより,これを総合的及び集約的に行うこと」と定めている(第1条)。
 また,第2条において,「特定複合観光施設」を「カジノ施設及び会議場施設,レクリエーション施設,展示施設,宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設(いわゆる「IR方式」である。)であって,民間事業者が設置及び運営をするもの」,「特定複合観光施設区域」を「特定複合観光施設を設置することができる区域として,地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域」と定義している。
 さらに,「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し,地域経済の振興に寄与するとともに,適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本」とし(第3条),内閣に,特定複合観光施設区域整備推進本部(本部長 内閣総理大臣)を設置し,「総合的かつ集中的に,必要な法律案及び政令案の立案」を行う(第14条及び第15条)とするものである。
 このように,カジノ解禁推進法案は,刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当するカジノについて,一定の条件の下に設置を認めるために必要な措置を講じるとするものである。
 しかし、以下の問題点から、本法案を容認することはできない。
2 カジノ解禁推進法案の問題点
(1) 暴力団対策上の問題
 2007年6月に策定された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」や,2011年10月までに全都道府県で施行された暴力団排除条例に基づき,官民一体となった暴排活動が進められた結果,暴力団の資金源は逼迫しつつある。このような暴力団がカジノへの関与に強い意欲を持つことは,容易に想定される。この点,カジノ営業を行う事業主体からは暴力団を排除するための制度が整備されるとのことであるが,事業主体として参入し得なくても,事業主体に対する出資や従業員の送り込み,事業主体からの委託先・下請への参入等は十分可能である。カジノ利用者をターゲットとしたヤミ金融を典型とする,顧客とカジノとの間の「媒介者」としての関与等,周辺領域での資金獲得活動に参入することも可能である。しかも,これら資金獲得活動を行うに際しては,暴力団員が直接関与する必要がなく,その周辺者,共生者,元暴力団員等を通じて関与することが十分可能であり,これら業務を通じて獲得した資金が暴力団の有力な資金源となり得る。近時,暴力団による金員の要求は巧妙化し,支払いの態様は多様化していることからも分かるように,その支払事実を捕捉することは必ずしも容易ではない。
(2) マネー・ローンダリング対策上の問題
 我が国も加盟している,マネー・ローンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告において,カジノ事業者はマネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されている。
 我が国にカジノを設けた場合,仮にカジノ事業者に対して,犯罪による収益の移転の防止に関する法律に基づく,取引時確認,記録の作成・保存,疑わしい取引の届出を求めたとしても,こうしたマネー・ローンダリングを完全に防ぐことができるとは考えられない。
(3) ギャンブル依存症の拡大
 ギャンブル依存症は、慢性、進行性、難治性で、放置すれば自殺に至ることもあるという極めて重篤な疾患である。一方、カジノは利益を上げるために多数の賭博客を得ようとするのは当然であり、カジノ設置によってギャンブル依存症の患者が増加することは避けられない。
(4) 多重債務問題再燃の危険性
 賭博には必ず敗者が存在する。破産調査の結果によると,破産した者のうちギャンブルが原因と見られる者が5%程度にのぼる。
 2006年の貸金業法改正等,官民一体となって取り組まれてきた一連の多重債務者対策によって,この間,多重債務者が激減し,結果として,破産者等の経済的に破綻する者,また,経済的理由によって自殺する者も減少してきた。カジノの合法化は,これら一連の対策に逆行して,多重債務者を再び増やす結果をもたらす可能性がある。
(5) 合法的賭博が拡大することによる青少年の健全育成への悪影響も軽視できない。とりわけ、「IR方式」は、家族で出かける先に賭博場が存在する方式であるから、青少年らが賭博に対する抵抗感を喪失したまま成長することになりかねない。
3 まとめ
 以上のとおり,刑法で禁止されている賭博行為を行うカジノを推進する本法案は,上記のような様々な弊害をもたらすものであるから、当会は,これに反対する立場を表明するとともに,その速やかな廃案を求めるものである。

2014年(平成26年)10月14日
岐阜県弁護士会
会長 仲松 正人
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