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憲法に緊急事態条項を創設することに反対する会長声明

2016.10.04

1 2012(平成24)年4月に自民党が公表した日本国憲法改正草案(以下「自民党改憲草案」という。)には、緊急事態条項(第98、99条)が盛り込まれている。しかし、以下に述べるように、かかる緊急事態条項は、立憲主義の趣旨に反するものである。
 2 自民党改憲草案の緊急事態条項は、いわば行政に立法権を付与するものであり、国民主権・議会制民主主義・権力分立という憲法秩序が停止されることにより、政府への権力の集中と強化をもたらし、その結果、権力の濫用により国民の自由や権利が侵害される危険性が高い。加えて、緊急事態条項があるために、裁判所の違憲立法審査権による統制が機能しないおそれも生じる。そもそも、国民の権利・自由に対する最大の侵害者は国家である。それゆえ、近代国家における憲法は、国家権力を制限して国民の権利・自由を守ることを目的として存在する(立憲主義)。これに対し、緊急事態条項は、国家権力から国民の基本的人権を擁護するための憲法秩序を一時停止させる権限を国家権力自身に与えるものであり、立憲主義を破壊する大きな危険性を孕んでいる。事実、ワイマール憲法下においてヒトラーに独裁政権を許した例や大日本帝国憲法における緊急勅令等の例のように、緊急事態条項は、国家権力を担う者により濫用されてきた歴史がある。日本国憲法は、このような歴史を踏まえ、あえて緊急事態条項を設けなかったのである(憲法制定議会議事録参照)。
 3 緊急事態条項の創設に関し、安倍首相は2011年3月に発生した東日本大震災や本年4月に発生した熊本地震に言及している。しかし、日本の災害法制においては、大規模災害時の対処のために必要にして十分な整備が既になされている。たとえば、内閣総理大臣は、災害緊急事態を布告し、生活必需物資等の授受の制限、価格統制等を決定できる(災害対策基本法)ほか、必要に応じて地方公共団体等にも指示ができる(大規模地震対策特別措置法)。都道府県知事及び市町村長に対する強制権の付与も規定されている(災害救助法、災害対策基本法)。
 4 以上のように、自民党改憲草案の緊急事態条項は、災害対策等を口実に立憲主義の根幹を変容させ、その濫用による国民の権利や自由を不当に奪う危険性がある。
 よって、当会は、憲法に緊急事態条項を創設することに強く反対するものである。

2016年(平成28年)10月 4日
岐阜県弁護士会
会長 畑   良 平
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