消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する会長声明
政府は、「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という)を設置し、本年3月には基本方針を決定することとしている。その中で、徳島県からの提案を受け、消費者庁の全部(内閣府消費者委員会を含む)と国民生活センターの全部を同県に移転することが検討されている。
しかし、当会は、以下の理由により、消費者庁、国民生活センター及び消費者委員会の地方移転に反対する。
1 はじめに
政府関係機関を地方に移転する取り組み自体は、地方の活性化等に資する場合もあると思われ、当会としては、そのような取り組みの全てに反対するものではない。
しかし、地方移転によって政府関係機関が果たすべき機能が大きく損なわれることになってはならないから、地方移転にあたっては、その機関の果たすべき機能を個別に検討をした上での、慎重な検証が不可欠となる。
この点、有識者会議も、道府県からの地方移転に関する提案のうち、「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」や、「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」に係る提案、「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」などについては、移転させないとの方向性を示している。
2 消費者庁の地方移転について
消費者庁は、中国産冷凍餃子への毒物混入事件や相次ぐ食品表示偽装問題など重大な消費者問題の発生を受けて、従来の各省庁縦割りの仕組みを解消して消費者行政を一元化し、安全安心な市場の確保を図るため、政府全体の消費者行政を推進する司令塔の役割を担うべき組織として、平成21年9月創設されたものである。
消費者問題は国民生活のあらゆる場面に関わる問題であり、消費者庁は、政府全体の消費者行政にかかる消費者基本計画の策定、消費者被害の発生・拡大の防止を図るための消費者安全法に基づく他省庁が所管する法律の権限の発動の働きかけ、所管法・所管大臣がないいわゆる隙間事案への対応や施策実施、法改正作業のための関連省庁・内閣法制局・国会議員との協議・調整など、日常的に他のほぼ全ての政府関係機関と連携し一体となって業務を行っている。
大規模な食品被害など消費者の安全を脅かす事態に対しては、官邸および関係省庁との迅速な連絡協議によって様々な緊急対応を行うなど政府の危機管理業務を担うことが求められるが、2013年(平成25年)暮れに発覚した冷凍食品への農薬混入事件に対する消費者庁による他省庁との密な連携に基づく迅速な対応は記憶に新しいところである。
このように消費者庁は他の政府関係機関と一体的に業務を行うことが必要不可欠な機関であることは明らかであり、とりわけ、消費者庁がその司令塔としての実践的な役割を果たすためには、関係省庁との日常的な会議等の実施、法改正作業を迅速かつ頻繁に行うための法案立案作業に関する協議、衆参議員で開催される特別委員会への出席、各政党で行われる調査会、勉強会への出席等の国会対応等が不可欠であり、関係省庁に近接して設置されていることが望ましい。他の政府関係機関が東京に集中している現状において、地方に移転することになれば、通信機器の発達した現在においても、その本来果たすべき重要な機能を低下させ、我が国の消費者行政全体の後退による国民の日常生活の安全が脅かされるのみならず、緊急事態への対応の遅れによって国民の生命身体への危険を拡大させる事態を招きかねない。
3 国民生活センターの地方移転について
国民生活センターは、全国の消費生活相談情報を集約・分析し、一般消費者や地方自治体に情報を発信するだけでなく、消費者庁や消費者委員会や各省庁の消費者関連法制度の不備や見直しの問題提起や立法事実となる資料提供を行うなど、消費者庁ほか関連省庁との密接な連携により、政府全体の消費者行政を推進する機能を果たすことが求められているのであって、これを切り離して地方移転することは、消費者行政全体の機能の低下をもたらすことは明らかである。
4 消費者委員会の地方移転について
消費者委員会は、消費者庁等からの諮問事項を審議するほか、各種の消費者問題について、自ら調査・審議を行い、消費者庁を含む関係省庁の消費者行政全般に対して意見表明を行っている。このような監視機能を十分に実現するためには、各省庁、関連事業者、事業者団体等との間の密接なアクセスが不可欠である。
消費者委員会の地方移転が、消費者委員会の機能の低下をもたらすことは明らかである。
5 結論
以上のとおり、消費者庁、国民生活センター及び消費者委員会が地方へ移転することは、これら機関の機能の低下をもたらすものであり、当会は、消費者庁、国民生活センター及び消費者委員会の地方移転に反対する。
岐阜県弁護士会
会長 森 裕 之
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