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中東海域への自衛隊派遣の中止を求める会長声明

2020.03.11

1 2019年12月27日、日本政府は、日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動を目的として、中東アデン湾等へ護衛艦1隻を派遣すること、及び海賊対策のためにソマリア沖に派遣中の固定翼哨戒機P-3Cを活用することを閣議決定した(以下「本件派遣」という。)。それを受け、2020年1月11日に固定翼哨戒機P-3C2機が、同年2月2日に護衛艦「たかなみ」がそれぞれ中東へ派遣された。

2 防衛省によれば、本件派遣は、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」を根拠とするとしている。しかし、同条は防衛省のつかさどる事務として定めているものであり、自衛隊を派遣する根拠となるとは考え難い。

  そもそも、自衛隊の任務、行動及び権限等は「自衛隊法の定めるところによる」とされているのであるから(防衛省設置法第5条)、本件派遣は、本来、自衛隊法に根拠がなければならない。ところが、本件派遣は、自衛隊法ではなく、防衛省設置法を根拠とするものであって、自衛隊法に基づかずに実施されるものであるから、防衛省設置法第5条に違反するというほかない。

 日本国憲法は、平和的生存権保障(前文)、戦争放棄(第9条1項)、戦力不保持・交戦権否認(第9条2項)という徹底した恒久平和主義を採用している。そして、その徹底した恒久平和主義の下、防衛省設置法第5条は、自衛隊に認められる任務・権限を自衛隊法で定められているものに限定し、自衛隊法に定められていない任務・権限は認めないとすることで、自衛隊の活動を規制している。にもかかわらず、自衛隊法ではなく、前記「調査及び研究」を自衛隊の活動の法的根拠とすることが許されるならば、自衛隊の活動に対する歯止めがなくなり、憲法で国家機関を縛るという立憲主義にも反する。

 

3 また、本件のように、前記「調査及び研究」を根拠とする自衛隊派遣の方式が容認されることになれば、例えば、重要影響事態が想定される事態や国際共同対処事態が想定される事態が発生した場合、その地域・海域へも同様の根拠で、国会の承認を得ることなく、自衛隊の部隊を派遣することが可能となる。そして、その際の「調査及び研究」目的での派遣は、重要影響事態、国際共同対処事態での自衛隊派遣と限りなく接近したものとなり、武力紛争での自衛隊のなし崩し的派遣にもなりかねない。それは、まさに集団的自衛権のなし崩し的行使というべきものであり、憲法9条に反するものである。

  しかも、今般の自衛隊の中東海域への派遣に関しては、「諸外国等と必要な意思疎通や連携を行う」としていることから米国等有志連合諸国の軍隊との間で情報共有が行われる可能性は否定できず、武力行使を許容されている有志連合諸国の軍隊に対して自衛隊が情報提供を行った場合には、日本国憲法第9条が禁じている「武力の行使」と一体化するおそれがある。また、今般の閣議決定では、中東海域で不測の事態の発生など状況が変化する場合に、日本関係船舶防護のための海上警備行動を発令するとしているが、海上警備行動や武器等防護(自衛隊法第95条及び第95条の2)での武器使用が国又は国に準ずる組織に対して行われた場合には、日本国憲法第9条の「武力の行使」の禁止に抵触し、さらに戦闘行為に発展するおそれもある。

 現に、2020年1月3日、米軍の攻撃によって、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官らが殺害され、それに対する報復として、同月8日、イランは、イラクにある駐留米軍基地2箇所を弾道ミサイル十数発で攻撃している。その際、イランは「これに米国が反撃した場合は、中東の米同盟国も標的にする」との声明を発表した。その後、現時点では米国とイランとの間の大規模な武力紛争には至っていないが、今後の中東の情勢は極めて流動的で、米国とイランとの軍事的緊張関係は予断を許さない状況である。

4 よって、当会は、本件派遣は、防衛省設置法第5条に違反し、恒久平和主義、立憲主義に反すること、そして、現に自衛隊が戦闘に巻き込まれるおそれが高まっていることから、閣議決定と派遣命令を取り消し、本件派遣を中止するよう求める。

2020年(令和2年)3月11日

岐阜県弁護士会

会長  鈴 木 雅 雄

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