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少年法改正に関する法制審議会答申に反対する会長声明

2021.01.16

少年法改正に関する法制審議会答申に反対する会長声明

2020年10月29日,法制審議会は少年法に関する改正案を答申した(以下,「答申」という。)。答申は「18歳及び19歳の者に対する処分及び刑事事件の特例等」に関し,これらの者の被疑事件について家庭裁判所への全件送致を維持した点は評価できる。しかし,それ以外の部分については,以下に指摘する点を中心に多くの問題点を含むものである。

1.原則逆送事件の範囲を拡大している点
 答申は,18歳及び19歳の者について,犯罪の嫌疑がある場合は全ての事件を家庭裁判所に送致し,家庭裁判所が調査をしたうえで処分を決定するという枠組みを維持している。現行少年法の全件家裁送致は,対象者の問題点を早期に発見し,科学的に調査した上で最も適切な処遇を選択するため,このような調査と処遇判断につき,事案の軽重を問わず全件について,これを行うのに最も適した専門的機関である家庭裁判所に集中させるものである。この制度は,少年法の基本理念である少年の健全育成を実現する上で極めて重要な役割を果たしてきた。答申が全件家裁送致の枠組みを維持したことは評価できる。
 しかし,他方で答申は,18歳及び19歳の者に対して刑事処分を適用する原則逆送事件の範囲を,「死刑または無期若しくは短期1年以上の新自由刑(仮称)に当たる罪の事件」にまで大幅に拡大すべきとしている。その結果,たとえば強盗罪のように犯情の幅が極めて広く,現行法下であれば保護観察から少年院送致まで,犯情や要保護性を踏まえた様々な処分がありうるはずの事件類型についてまで,検察官送致が原則とされることとなる。
これにより,拡大される原則逆送事件の対象事件については,家庭裁判所調査官による社会調査や少年鑑別所による心身鑑別が形骸化し,保護処分による少年の立ち直りへの援助や再犯防止の効果は得られなくなる。少年法の健全育成の理念は大幅に後退することになる。

2.ぐ犯による保護を廃止する点
 答申は,「罪を犯した18歳及び19歳の者」を対象とし,犯罪には該当しない「ぐ犯」は対象としていない。 
ぐ犯にいたる少年は,差別や虐待,貧困や,学習機会を得られないことによる能力的な遅れなど,特に社会的に弱い立場におかれ,その環境に強く影響されて犯罪や非行に近づくことも多い。ぐ犯は,これらの少年を保護することによって犯罪や非行を防止すベく,保護処分の対象として定められた非行類型である。ぐ犯を廃止することは,このような環境におかれた少年に援助の手を差し伸べることなく,切り捨てることになりかねない。
答申は附帯事項として,「犯罪の防止に重要な機能を果たしていると考えられる行政や福祉の分野における各種支援についても充実した取組が行われること」が望まれるとした。しかし,たとえば児童福祉法では18歳及び19歳の者を新規の措置対象とすることはできない。また,社会的に弱い立場にあるこれらの者が自ら支援を求めること自体,必ずしも容易ではない。現状の行政や福祉の分野での取組みには限界がある。そのような状況において,いわば「最後のセーフティネット」として,ぐ犯を家庭裁判所における司法手続の対象とする必要性は全く失われていない。

3.推知報道の制限を緩和する点
 答申は,「18歳,19歳の時の犯罪により公判請求された場合を除き」推知報道
を禁ずるとし,これらの者が公判請求された場合には,その罪について推知報道の禁止が及ばないとする。
 少年法61条は,少年事件の推知報道を一律に禁止している。これは,未成熟で発達途上にある少年及びその家族の名誉・プライバシーを保護するとともに,そのことを通じて過ちを犯した少年の更生を図ろうとするものである。
特に,近時のインターネットの発達により,いったん推知報道がなされその内容がインターネット上で取り上げられれば,当該情報はインターネット上に残り続け,不特定多数の者が容易に検索しうる状態が長期にわたって続く。対象者及びその家族のプライバシー等が保護されないだけでなく,対象者が更生を図ろうとしても,就職,住居の賃借など折々の重要な機会において,社会から拒絶されるリスクを高めることとなり,社会復帰の妨げとなりかねない。
その結果,18歳及び19歳の者は,類型的に成長発達途上にあり可塑性に富む存在でありながら,社会から隔絶され,社会復帰の出発点に立つことすら困難となり,その後の更生が著しく妨げられる。社会の一時的な興味関心の的となることと引き換えに失われるものはあまりにも大きい。
しかも,このような状況は,報道あるいは情報発信に伴う「社会的制裁」や「私的制裁」としての効果を容認することにもつながりかねず,対象者自身の更生意欲や,対象者の更生を支える社会資源にも悪影響をもたらすおそれがある。その意味でも,推知報道の禁止が持つ意義は大きい。
 さらに,刑事裁判の結果,保護処分が相当であるとして,少年法第55条により家庭裁判所へ移送される場合もある。家庭裁判所に移送された後には改めて推知報道の禁止の対象とされるが,それ以前の公判請求段階で推知報道が認められてしまえば,その者の立ち直りや社会復帰に対する悪影響は解消できず,その不利益は回復し難い。

4 結論
答申は,18歳および19歳の者の位置づけについて,「類型的に未だ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有する存在」とし,20歳以上の者とは異なる取扱いをすべきであるとした点については,評価できる。
しかし,他方でこれらの者の位置付けやその呼称については,今後の立法プロセスにおける検討に委ねるのが相当であるとし,結論を出していない。今後の立法にあたっては,少なくとも18歳及び19歳の者を少年法の適用対象として明確に位置付けられるべきである。
また,これまで述べてきた通り,答申は原則逆送の対象事件の範囲拡大,推知報道の一部適用除外,及びぐ犯を対象としないことについて問題を含むものである。
したがって当会は,答申の少年法改正案に対し,反対の意見を述べるとともに,政府に対し,少なくとも上記に述べた問題点が解消されるのでない限り,答申に沿った法律案の国会への提出を行わないよう求める。

 令和3年1月13日
 岐阜県弁護士会 会長 山田 徹

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