出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明
1 政府は、本年(2023年)3月7日、出入国管理及び難民認定法改正案(以下「本改正案」という。)を国会に提出し、5月9日に衆議院の本会議で可決された。
本改正案は、2021(令和3)年の通常国会で廃案になった出入国管理及び難民認定法の改正案(以下「旧法案」という。)について、その骨子を変えないままに再提出されたものである。
当会は、旧法案に対して反対意見を述べた(同年2月5日付け「送還忌避罪を創設する等の入管法改正に反対する会長声明」)。本改正案についても、旧法案に対する懸念は払拭されていない。特に、以下の問題点は深刻である。
2 本改正案においては、旧法案と同様、難民申請中の送還停止を原則2回までとし、3回目以降の難民申請については送還を可能とする旨の送還停止効の例外が定められている。
難民申請者の中には、生命に関わる迫害を受けるおそれを理由として本国から日本へ逃げてきた難民もいる。それにもかかわらず、一度の申請では難民として認定されず、複数回の申請の末にようやく認定される者も相当数存在するところである。当該現状において3回目以降の難民申請者に対して強制的な送還を可能とすることは、難民申請者の生命身体に差し迫った危険を及ぼすことが強く懸念される。そもそも、日本は、諸外国に比べ難民認定率が極端に低いことが指摘されており、政府の難民認定手続が適切に実施されているとは言い難い。まず、現行の難民認定手続の適正化に向けた法整備や具体的措置を先行させるべきである。そのような手当てもないまま送還停止効を一部解除する本改正案は、迫害を受けるおそれのある地域に送還してはならないとする「ノン・ルフールマン原則」に反するおそれがある。
なお、本改正案には、送還停止の効力の一部解除について、3回目以降の難民申請でも難民等と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出した場合には、送還停止の効力が維持されるとの例外規定が設けられている。
しかし、当該規定に該当するか否かの判断を行うために別途第三者機関等が予定されているものではないため、かかる例外規定によって前記の問題が払拭されたとは言えない。
3 本改正案においては、旧法案と同様、退去強制令書が発付された上で日本から退去しない被退去強制者に対して、一定の期日までに日本から退去するよう命令する制度を創設し、その命令違反に対して刑事罰の定めがある。
同制度は、主任審査官が発付する退去強制令書を理由として、司法審査を経ることなく刑罰を科すものである。退去強制に関する司法判断が示される前に罰則が適用されることになれば、司法による救済を受ける機会を奪うことになりかねず、また、罰則の適用対象が過度に広がるおそれがある。
さらに、退去強制令書の発付を受けた者に対して刑事罰が科されることとなれば、在留のための活動を支援する家族や支援団体、弁護士等の支援者がその共犯とされる可能性も出てくるため、これら支援活動を萎縮させる結果となる。
そこで、このような刑事罰は不当であって、定めるべきではない。
4 旧法案においては、退去強制令書により収容中の外国人等に対して、逃亡のおそれの程度等を考慮し、監理人による監理を付して収容を放免する監理措置制度を新設しようとした。
本改正案は、収容を回避する枠組みとして収容と監理措置のいずれかを選択できるとの建前をとった上で、収容の要否を3か月ごとに必要的に見直す規定を創設し、監理措置制度における監理人の定期報告義務を削除するなど一部修正を加えたものと言える。
しかし、収容の要否を3か月ごとに必要的に見直すとした点は、収容の要否を裁判所等の第三者に審査させるものではなく、当事者たる所轄庁が自ら検討判断するものにすぎない。また、監理措置制度における監理人の定期報告義務を削除するとした点も、主任審査官が求めた場合には監理人に報告義務が別途課されるものであることからすれば、本改正案による旧法案の修正はいずれも不十分であると言わざるを得ない。
そもそも収容にあたって司法審査を行う必要性や収容期間の上限を設ける必要性については、国連自由権規約委員会の総括所見においても勧告を受けているところである。全件収容主義を改め、収容にあたって司法審査を導入し、収容期間の上限を設けるよう改めるべきである。
5 以上のとおり、本改正案は、従前から指摘されている入管法の問題点について抜本的な改善がなされていない。当会は、これらの出入国在留・難民認定制度の問題や国際的な水準を顧みて、本改正案に含まれる前記の深刻な問題が抜本的に修正されない限り、本改正案に反対する。
2023年(令和5年)5月10日
岐阜県弁護士会
会 長 神 谷 慎 一
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