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「オンライン接見」の実現を求める会長声明

2023.06.19

1 検討会

法務省の検討会(「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」、以下「検討会」という。)は、2021(令和3)年3月より、刑事手続におけるIT技術の導入に関する議論を行い、その結果を2022(令和4)年3月15日付け「取りまとめ報告書」(以下「報告書」という。)にて発表した。報告書では、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面化・遠隔化」が検討事項として挙げられている。その中の「被疑者・被告人との接見交通について」の項目では、弁護人と被疑者・被告人との非対面・遠隔での接見を可能にするため、ビデオリンク方式などの通信技術の活用(いわゆるオンライン接見の実現)に関する議論状況が報告されている。

 報告書にあるとおり、検討会では、オンライン接見の必要性を説き、その実現を強く求める意見が示されている。その一方で、①弁護人等以外の者がなりすます可能性があること、②接見禁止等決定の対象者がいる可能性があること、③接見等禁止決定がなされているにもかかわらず、録音等が行われて接見の内容が外部に漏れる可能性があることなどを指摘して、逃亡や罪証隠滅につながる行為を防止することが困難であるとの懸念を示す意見も述べられている。

 

2 オンライン接見を実現する必要性

身体を拘束された被疑者・被告人は、弁護人と接見して適切な助言を受けることができなければ、自らの正当な利益を守ることができない。弁護人にとっても、接見交通の機会が十分に保障されることが、適正かつ最善の弁護活動を行う上での基本的な条件である。ところが、現在においても、被疑者・被告人が弁護人から助言を受ける間もなく、取調べでの自白を強要されるといった違法・不当な捜査の実態がある。遠隔地であるために必要かつ十分な接見が困難となることが原因の一つであり、刑訴法及び憲法が要請する権利保障が全うされているとはいい難い状況である。

この点、岐阜県においては、被疑者・被告人の身柄を留置する刑事収容施設は県内の広範な地域に点在している。例えば、美濃地方の岐阜市内にある拘置所に留置された被告人と接見するために、飛騨地方にある高山市の会員弁護士が長距離を移動する必要が生じることは珍しくない。逆に、岐阜市内の弁護士が高山署などに接見に赴くことも同様にある。接見を速やかにかつ頻回に行うことが弁護実践として有効適切であることは論を俟たないが、遠隔地の施設に移動するために要する時間や交通手段を確保することに困難が生じることはしばしばある。

全国至る地域で同様の問題が生じており、これを解決するために、オンライン接見を可能にする法制度を実現する必要性は極めて高い。

 

3 報告書で示された懸念について

弁護士は、弁護士職務基本規定等が定める倫理的ルールを守ることが義務付けられている。そして、①なりすましや②③接見禁止等決定の潜脱を行うことは、懲戒処分の対象となる重大な非違行為である。このような高度の弁護士倫理によって、上記懸念の防止が規律されているのである。また、①なりすましや③録音の流失の問題は、現在の対面による接見でも問題となりうるが、これを理由に接見が禁じられることはない。よって、これらの懸念は杞憂であり、オンライン接見を否定する理由とはならない。

また、報告書では、オンライン接見のために設備・体制を設けることは「容易ではない」という懸念も紹介されている。しかし、接見交通の機会保障は、憲法に由来する被疑者・被告人の権利であり、これを保障するための設備等は、国の責任において提供されてしかるべきものである。

なお、オンライン接見においても、秘密交通権が確実に保障された制度・設備が構築されるべきことは当然である。

 

4 オンライン接見を実現するべきである

 科学技術は人間社会の進歩のために用いられるべきであり、人権保障が拡充されることは重要な社会の進歩である。IT技術もまた、人権保障を拡充するという観点で活用されるべきである。

 当会は、オンライン接見が実現されることを強く求め、これに向けた具体的な議論がさらに進展することを期待する。

以上

 

2023年6月19日

岐阜県弁護士会   

会長 神 谷 慎 一

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