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「大崎事件」再審請求即時抗告棄却決定に抗議する会長声明

2023.08.28

 

1 福岡高等裁判所宮崎支部(矢数昌雄裁判長)は、2023年(令和5年)6月5日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、請求人の即時抗告を棄却し、鹿児島地方裁判所の再審請求棄却決定を維持する決定をした(以下「本決定」という。)。

2 大崎事件は、1979年(昭和54年)、鹿児島県大崎町において牛小屋から遺体が発見されたことに端を発し、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」)、その当時の夫及び義弟が殺人・死体遺棄の、義弟の子が死体遺棄の罪に問われた事件である。アヤ子氏は一貫して無罪を主張したが、懲役10年の有罪判決を受け服役した。有罪の有力な証拠とされたのは、「共犯者」とされた3名の自白であった。

3 アヤ子氏が申し立てた第3次再審請求では、鹿児島地方裁判所において再審開始決定がなされ、即時抗告審においても検察官の即時抗告は棄却され再審開始の結論が維持された。特に、同即時抗告審は、「被害者」が帰宅した時点で死亡または瀕死の可能性があり、帰宅時の「被害者」の様子に関する近隣住民2名の供述が信用できない、それゆえ、「共犯者」3名の各供述の信用性に重大な疑義が生じると断じた。しかし、特別抗告審である最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)は、2019年(令和元年)6月25日、新旧両証拠の適切な総合評価を放棄し、新証拠に旧証拠を凌駕する高度の証明力を要求して、事実上、請求人側に無罪の立証責任を負わせるがごとき判示をして再審請求を棄却した。この棄却決定は、白鳥・財田川事件において最高裁自身が示したルール、すなわち、新旧両証拠の総合評価により確定判決の事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足り、再審手続においても「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を適用すべきであるというルールに反し、再審制度の趣旨を没却する不当なものであった。

4 2020年(令和2年)3月に申し立てられた第4次再審請求では、救命救急医の鑑定書、近隣住民2名の供述鑑定書が新証拠として提出された。これら新証拠は、それぞれの証明力が相まって、「被害者」が帰宅前に死亡しており、その後アヤ子氏らが「被害者」を殺害することはあり得ないことを明らかにするものであった。しかし、第4次再審請求審の鹿児島地方裁判所は、個々の新証拠の証拠価値を論難するばかりで、累次の再審請求審において多くの問題が指摘されてきた旧証拠との総合評価を適切に行わず上記最高裁決定の不当な判断に追従して、2022年(令和4年)6月22日、再審請求を棄却した。

5 本決定も、鹿児島地方裁判所の決定と同様に、救命救急医の鑑定書から、「被害者」が運ばれた時点で死亡していた可能性が否定できないことを認めながらも、その証明力を不当に低く評価して、旧証拠の証明力をどの程度弾劾するのかといった評価や、新旧全証拠の総合評価を適切に行わず安易に鹿児島地裁決定を追認している。「疑わしいときは被告人の利益に」の原則が再審にも適用されるとした白鳥・財田川決定に明らかに違反しているというほかない。加えて、死亡時期に関する検討も不十分であって、到底是認できないものである。

6 弁護団は、本決定に対する特別抗告を行っており、最高裁判所で判断されることになっている。最高裁判所は、本決定が行わなかった新旧全証拠による総合評価を適切に行い、「疑わしいときは被告人の利益に」の原則を踏まえ、再審を開始する旨の判断を速やかに行わなければならない。

7 アヤ子氏は現在96歳の高齢である。一刻も早く再審公判を開いて雪冤が果たされなければならない。当会は、今後も、大崎事件の再審開始のために支援するとともに、罪なき人の救済という再審制度の理念に沿った刑事訴訟法の改正に全力を尽くしていく所存である。

以 上

2023年(令和5年)8月28日 

岐阜県弁護士会 

                        会長 神 谷 慎 一

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