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子ども・子育て新システムに関する会長声明

2011.03.07

【1】2010年6月29日、「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下、「要綱」という。)が政府の少子化社会対策会議で決定された。
要綱に基づく「子ども・子育て新システム」(以下「新システム」という。)に関する法案は、子ども園の創設による幼保一体化、及び現行保育制度の大幅な変更等を内容とし、2011年通常国会に提出、2013年度の施行を目指すとされている。
要綱では、新システムは、「すべての子どもへの良質な成育環境を保障し、子どもを大切にする社会」を実現することを目的とするものとされている。そうした社会を真に実現するために必要な制度を構築していくこと自体には、異論のないところであろう。
しかし、発表された要綱からは、「すべての子ども」を大切にする社会実現のための具体的な施策が見えてこない。保育に関する記載が大半を占め、貧困状況にある子ども、障がいのある子ども、虐待を受けている子どもなど、困難を抱えた子どもに対する施策が抜け落ちている。

【2】また、新システムの制度設計について、問題をはらんでいる。
現行保育制度の大幅な変更について、新システムは、市町村の保育実施義務の撤廃、最低基準(ナショナルミニマム)の撤廃、保護者の費用負担を所得に応じた応能負担から利用に応じた応益負担への変更、保育事業への参入規制の緩和といった制度設計になっている。
しかし、新システムは、現行制度がよりよい保育を実現するために、一定程度確保していた児童福祉制度としての機能を後退させ、子どもの成育環境をむしろ悪化させる危険性すら見受けられるのである。
当会が特に重要と考える新システムの問題点は、以下のとおりである。

【3】市町村の保育実施義務の撤廃
児童福祉法は、児童の「保育に欠ける場合」には、市町村は原則として「保育所において保育しなければならない」(同法24条1項本文)と規定し、市町村の保育実施義務を明確に定めている。現行制度のもとでは、要保育認定がなされた場合は、市町村が具体的な施設の入所にまで責任を負っているのである。
他方、新システムでは、市町村の保育実施義務を撤廃し、各自治体は、各保育が必要であるかどうか(要保育度)を認定するだけであり、当該子どもが具体的にどの園に入所するのかについては、責任を負わなくなる。保護者は、自力で入園先を探し、施設と交渉して直接契約をしなければ、入所先が確保されないことになる。政府は、各園に入園希望の応諾義務を課すとしているが、結果的には、困難を抱えた子どもが排除される可能性がある。

【4】最低基準(ナショナルミニマム)の撤廃
現行制度は、国が定めた最低基準(ナショナルミニマム)として、園児に対する保育者配置、保育面積等が定められており、全国どの地域においても、最低限の保育の質を確保しようとしている。
しかし、新システムではナショナルミニマムが撤廃され、保育実施の基準は自治体の裁量となる。国際的には低水準の現行基準ではあるが、それすら撤廃することは、子どもの成育環境を悪化させ、保育の地域格差を拡大させるおそれが大きい。

【5】応能負担から応益負担へ
現行制度では、保護者の収入に応じて保育料を負担する(応能負担)。そのため、保護者の所得の格差が子どもたちの受ける保育の質に影響しないようになっている。
しかし、新システムでは、保育料は利用に応じて負担が増える応益負担となっている。しかも、自治体が認定した要保育度を超える保育時間を余儀なくされる場合には補助金の対象とならず、保育料は保護者の全額負担となる。そうすると、家庭の所得によって子どもの受ける保育の内容が区々になることなり、保護者の所得格差が子どもの受ける保育の格差につながる結果となる。

【6】保育所経営の不安定化のおそれ
新システムは、「多様な主体の参入促進」をするために、施設を運営する事業者が受ける保 育の報酬を、他事業等への活用できるとする。しかし、その結果、資金が他に用いられることで、保育所の経営が不安定になることも予想される。また、保育所運営経費の大半は保育者の人件費であるから、人件費を縮小して利益を図ることが予想される。そうなれば、保育者のパート・非正規化など不安定雇用がますます広がり、労働条件が悪化することが懸念され、その結果、保育の質の低下は避けられないであろう。

【7】以上から、当会は、新システムの拙速な導入に反対する。仮に新システムを導入するとしても、上記のような問題点を踏まえて、全国民的な議論のもとで真に「子どもを大切にする社会」の実現のために必要な制度を検討すべきである。政府は、待機児童の解消に腐心するのみではなく、人的・物的環境の充実した、良好な保育環境を子どもらに提供できるような制度の構築を目指すべきである。

2011(平成23)年3月7日
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会長 古田 修
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