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憲法第96条の発議要件緩和に反対する会長声明

2013.07.09

1.日本国憲法第96条は,「この憲法の改正は,各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする。」と定めています。
 ところで,自由民主党(以下「自民党」という。)は,2012年4月27日,日本国憲法改正草案を発表し,第96条の改正規定を,衆参各院の総議員の過半数で発議するように変更しようとしています。そして,この7月に実施される参議院議員選挙の公約としても,発議要件の緩和を掲げています。また,日本維新の会も憲法改正を主張し,第96条については,同様の憲法改正発議要件の緩和を提案しています。
2.憲法は,不可侵かつ永久の権利として,国民に基本的人権を保障するとともに(第11条,第97条等),立法権を含む国家権力の濫用によって,国民の基本的人権が侵害されることのないようにするために,権力に「縛り」をかけ,権力の行使を憲法に基づかせることを根本目的としています(第98条,第81条等)。これを「立憲主義」と言います。
 96条が各議院の総議員の3分の2以上の賛成による議決を求めたのは,この立憲主義の理念に由来します。仮に法律と同じように過半数の賛成で憲法改正を発議できるとするなら,時の政権与党は,立憲主義の観点から縛りをかけられている立場にあるにもかかわらず,その縛りを解くために容易に憲法改正案を発議することができます。その結果,基本的人権を保障するための最高法規である憲法が不安定な政治的緊張の中におかれ,その安定性が大きく損なわれることになりかねず,立憲主義が大きく後退してしまうこととなります。
3.この日本国憲法の改正要件は諸外国の憲法と比較しても,それほど厳しいものではありません。むしろ自民党の発議要件の緩和案のように,法律と同じ要件で改正できる憲法は少数で,ほとんどの国が法律制定よりも厳しい憲法改正要件を定めています。諸外国の憲法改正規定を根拠として,発議要件の緩和を正当化させることはできません。
 例えば,日本国憲法第96条と同じように,議会の3分の2以上の議決と国民投票を要求している国としては,ルーマニア,韓国,アルバニア等がありますし,さらに3分の2以上の議決を2回必要とするベラルーシ,4分の3以上の議決を必要とするフィリピンもあります。国民投票を要しない場合にも,再度の議決が要求されるイタリア,連邦議会の3分の2以上の議決と4分の3以上の州議会の承認が要求されるアメリカ,議会の3分の2以上の議決を必要とするドイツ,議会の議決と両院合同会議の5分の3以上の議決を必要とするフランスなど,様々な憲法改正手続を定める憲法が存在します。
4.なお,今回の発議要件の緩和は,まず改正規定を緩和して憲法改正をやりやすくし,その後,憲法第9条や人権規定,統治機構の条文等を改正しようとの意図によるものと言われています。これは,まさに,国の基本的な在り方を定め,人権保障のために国家権力を縛る「立憲主義」を骨抜きにしようとするもので,本末転倒の議論と言わざるを得ません。
 また,2006年10月16日に当会が発表した憲法改正国民投票法案に対する会長声明でも指摘しましたが,日本国憲法の改正手続に関する法律には,国民投票における最低投票率の規定がなく,国会による発議から国民投票までに十分な議論を行う期間も確保されていません。公務員と教育者の国民投票運動に一定の制限が加えられているため,国民の間で十分な情報交換と意見交換ができる条件が整っているとも言えません。これでは,国民の間で充実し,かつ,慎重な議論もできないままに国民投票が行われることになってしまい,この国の進路を大きく誤らせるおそれがあります。
5.以上のとおり,日本国憲法第96条について提案されている改正案は,いずれも国の基本的な在り方を不安定にし,立憲主義と基本的人権尊重の立場に反するものとして極めて問題であり,許されないものと言わざるを得ません。
 よって,当会は,憲法改正の発議要件を緩和しようとする憲法第96条改正提案には強く反対するものです。

2013年(平成25年)7月9日
岐阜県弁護士会
会長 栗山 知
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