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民法(債権法)の全面改正に反対する会長声明

2013.10.22

1 平成25年2月26日開催の法務省法制審議会の民法部会において,「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)が決定されたが,これに基づく民法(債権法)の全面改正について,当会の意見を述べる。
2 民法典は,わが国の民事秩序を支える基本法である。このような基本法を大幅に改正すれば国民の日常生活や経済活動に及ぼす影響が大きいのであるから,その改正にあたっては,まず改正について社会全体の意見を募り社会的必要性(立法事実)を慎重に見極めた上で,改正の是非を議論するべきである。
 ところが,今回の改正は,学者や法務省職員を中心とする「民法(債権法)改正検討委員会」がまとめた「債権法改正の基本方針」を出発点とし,法制審議会の議論においても,全面改正が必要か否かという議論を十分になされないままに,改正ありきで各論の改正議論を先行させる状態となっている。
 中部弁護士会連合会が同会会員を対象に実施したアンケート調査によると,「あなたは,実際に弁護士として債権法の改正の必要を感じた事案にこれまで遭遇しましたか」という質問に対する回答は,「基本的に遭遇していない」が83%,「かなり遭遇している」「かなりの頻度で遭遇している」と答えた者は,610名中3名であった。全国の弁護士を対象とした同様の調査においても,「基本的に遭遇していない」が78%であって,「かなり遭遇している」等と答えた者は1%に過ぎない。このように,実際に債権法を日常的に用いている弁護士の大多数は,改正の必要性を感じているとは思われないのである。
 他方,消費者団体・経済界においても,民法(債権法)の全面的改正の必要性について十分な議論が尽くされおらず,「中間試案」決定後,経済界からも慎重な検討を求める提言等が発表される状況にある。
 このように,今回の「中間試案」は,日本社会の需要に基づくものとは言いがたく,そもそも,改正の社会的必要性が存在していないというべきである。
3 本改正は,民法の一部である債権法を全面的に改正することによって,一般的・抽象的規定を個別規定に先立って「総則」としてまとめるという民法の基本構造を崩すものであり,民法の他領域の見直し予定も決まっていない状況において,債権法だけを先行して改正することに疑問なしとしない。また,今回の「中間試案」は債権法の条文を大幅に増加させるものであるところ,いたずらな多条文化は,かえって民法を複雑で分かりにくいものとする恐れがある。
更に,「中間試案」に示されたように,本改正によって各条文の文言が安易に変更されれば,現在の民法典との連続性を失い,長年にわたり積み上げられてきた判例規範の多くが適用可能か否か不明となる可能性が高い。そうなれば,現在確保されている裁判の予測可能性が失われ,法律家のみならず,一般国民,企業に大きな混乱を招くおそれもある。
 加えて,債権法を改正するにあたっては,民法全体の整合性,消費者契約関連法,商行為関連法,労働契約関連法等の民事特別法との相互関連や役割分担について配慮し,民事法体系全体として整合性・統一性を持たせることが必要であり,これら民事法体系全体の改正にかかる社会的コストは計り知れない。
4 今回の「中間試案」決定の手続についても,以下のとおり,その公正性に問題がある。
 「中間試案」の取りまとめを行った法制審議会民法部会は,民法研究者,法務省関係者,弁護士,消費者問題関係者,労働組合関係者,経済関係者等で構成されているところ,委員・幹事の4分の3以上は研究者,法務省の関係者等で占められており,一般国民や企業の声を代弁すべき弁護士,消費者問題関係者,労働組合関係者,経済関係者はわずか4分の1に過ぎない。また,研究者についても,「民法(債権法)改正検討委員会」の民法(債権法)全面改正を目指すメンバーで組織され,法務省関係者が作成した原案に反対した研究者は排除されているとの指摘もある。このように,偏ったメンバーで構成された組織で公正な審議が行われているかは極めて疑わしく,民法という重要な基本法の改正手続として不適切であるというべきである。
5 現行民法は制定後既に110年以上を経過しており,当会としても,民法の各規定が現代社会に適合しているかどうかを見直す作業自体を否定するものではない。
しかしながら,上記の通り本改正が社会的必要性に基づくものであるかについて重大な疑義があることから,当会は,「中間試案」に基づいて民法(債権法)の全面改正を進めることに反対するとともに,法制審議会民法部会の構成を,弁護士をはじめ消費者問題関係者,労働組合関係者,経済関係者の委員を大幅に増員する等して,実務法曹や一般国民,企業等社会全体の意見を取り入れて審議できるよう改善し,改めて民法改正の社会的必要性について慎重な審議をすることを求める。

2013年(平成25年)10月22日
岐阜県弁護士会
会長 栗山 知
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