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岡口基一裁判官の弾劾裁判につき罷免しないことを求める会長声明

2022.06.09

1 弾劾裁判の状況

裁判官訴追委員会は,2021年6月16日岡口基一裁判官(以下「岡口裁判官」という。)の罷免を求め,裁判官弾劾裁判所に訴追した。2022年3月2日,弾劾裁判の初公判が開かれ,岡口裁判官は反省の弁を述べ,岡口裁判官の弁護団は罷免を争う姿勢を示した。

 

2 司法権の独立及び裁判官の身分保障

憲法は,多数決原理によって権利を侵害された少数者の人権を保障するため,権力分立の原理により,司法権を裁判所に与えている。そして,国家権力の干渉を排して少数者の人権を保障するために,司法権の独立を定めている(憲法76条3項)。国家権力による不当な干渉は,個々の裁判官に対してもなされる危険性があることから,個々の裁判官の身分を保障すべく,憲法は,裁判官について,裁判により心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては公の弾劾によらなければ罷免されないと定めている(憲法78条)。

その公の弾劾により罷免ができるのは,職務上の義務に著しく違反し,又は職務を甚だしく怠ったとき(裁判官弾劾法2条1号),その他職務の内外を問わず,裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき(同法2条2号)に限るとされている。このように,憲法は,少数者の人権保障の観点から,司法権の独立及び裁判官の身分を保障している。

 

3 罷免の裁判による重大な不利益

ひとたび罷免の裁判がなされた場合には,それに対する不服申立の制度がなく,1回きりの手続となるうえ,裁判官としての職を失うとともに(同法37条),他の法曹資格も失うことになる(弁護士法7条2号,検察庁法20条2号)。このように,罷免の裁判がなされた場合には,その不利益は極めて重大である。

 

4 極めて重大かつ明白な非違行為に限定されるべきである

過去の弾劾裁判例を見ると,訴追された9件のうち罷免が宣告された7件は,収賄や公務員職権濫用,児童買春,ストーカー行為,盗撮等の犯罪行為に該当する事案であり,いずれも犯罪行為に及んだものばかりであった。司法権の独立や裁判官の身分保障,罷免の裁判による不利益の重大さの観点から,過去の弾劾裁判例をみれば,「職務の内外を問わず裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき」(裁判官弾劾法2条2号)とは,憲法が身分を手厚く保障する裁判官のみならず法曹資格さえもはく奪することが正当化されるほどの極めて重大かつ明白な非違行為に限定されるというべきである。

 

5 岡口裁判官の行為は罷免事由に該当しない

本件訴追の対象となった行為は,岡口裁判官のインターネット上での書き込み及び取材や記者会見での発言などの機会において,刑事事件の被害者遺族の感情を傷つけるとともに侮辱し,また民事訴訟の当事者本人の社会的評価を不当におとしめた,というものである。

確かに,本件訴追の対象となった行為の中には,不適切と評価されるような行為もある。ただ,いずれの行為も,極めて重大かつ明白な非違行為というものではない。過去の弾劾裁判例と比較しても,岡口裁判官の行為によって弾劾されるのは著しく均衡を失するというべきである。

裁判の核心は,裁判官が,その職務から得た知識や経験のみならず,私生活における知識や経験もあわせて一般常識や社会通念を涵養して「良心」を形成し,その「良心」をもって裁くことにある(憲法76条3項)。仮に岡口裁判官が罷免されるようなことがあれば,裁判官弾劾法2条2号の拡大解釈を許すことになり,罷免・訴追制度が濫用される危険性が発生し,職務執行のみならず私人たる行為についても裁判官が萎縮することになりかねない。それは,司法権の独立や裁判官の身分保障に反する結果となるうえ,国民の正当な裁判を受ける権利を損なうことにもなりかねない。

 

6 罷免すべきではない

以上より,当会は,弾劾裁判所に対し,司法権の独立及び裁判官の身分保障という観点から,岡口裁判官を罷免しないように求める。

 

2022年(令和4年)6月9日

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会 長  御 子 柴 慎

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