「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」の閣議決定及び国会提出に抗議し、その撤回を求める会長声明
1 閣議決定及び国会への提出
政府は、2024年2月27日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。本法案の概要は、①重要経済基盤(重要なインフラや物資のサプライチェーン)に関する一定の情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため特に秘匿する必要があるものを「重要経済安保情報」として秘密指定する、②「重要経済安保情報」の取扱いの業務は政府による適正評価(セキュリティ・クリアランス)を実施し、重要経済安保情報を漏えいするおそれがないと認められた者に制限する、③漏えいや取得行為について刑事罰を科す、というものである。
2 特定秘密保護法による取締を拡大するものである
政府が作成した本法案の解説では、「経済安全保障上の重要な情報」のうち、漏洩等があることで「著しい支障」が生じるものを「特定秘密」とし、それには至らない「支障」相当のものを「重要経済安保情報」として区分したうえで、本法案は後者の「重要経済安保情報」を対象とするものである。
本法案は、このように、特定秘密には至らない「経済安全保障上の重要な情報」を「重要経済安保情報」として新たに取締の対象とするものである。しかも、特定秘密保護法のように外交・防衛・テロ・スパイ活動の4分野に限定されているわけでもない。よって、特定秘密保護法を拡大するものだといえる。本法案の章立ては、総則、重要経済安全保障情報の指定、提供、取扱者の制限、適正評価、雑則、罰則と、特定秘密保護法と同じ構成になっているが、この点からも特定秘密保護法の拡大法ということができる。
3 人権を不当に制約する現実的な危険がある
本法案が実際に施行されれば、以下のような重大な人権侵害が起きることが予想される。
まず、①「重要経済安保情報」は、特定秘密保護法の「特定秘密」には該当しないが、軍事転用にもつながる最先端の技術の開発にあたり、サイバー攻撃の攻撃元や手口に関する情報、半導体や宇宙、原子力など重要物資の規制や守るべき技術に関する情報などが想定される。しかし、「重要経済安保情報」として指定される範囲が不明確である。しかも、秘密指定が適正になされているかをチェックするための政府から独立した第三者機関は置かれていない。それどころか、特定秘密保護法が特定秘密について定める両議院の情報監視審査会や国会への報告制度すらない。これでは「経済安保情報」が恣意的に拡大される深刻な懸念がある。
また、②セキュリティ・クリアランスについても、不当な人権制約が生じる危険がある。セキュリティ・クリアランスとは、政府が保有する機密情報へのアクセス許可のために個人の適性を評価するもので、主要先進国で導入されてきている。しかし、本法案では、特定秘密と異なり、政府職員のみならず広範な民間事業者や大学、研究機関なども対象とされ、当事者のみならず家族や同居人も対象にされるなど、対象範囲が極めて広い。調査内容も、精神疾患に関する事項や経済状況などを含む広範かつ私事性・秘匿性の高い高度なプライバシー事項が対象とされている。また、収集された個人情報の管理方法も定められていない。調査には本人の同意が要件とされているものの、業務のためには事実上同意せざるを得ないなか、プライバシー権(憲法13条)の不当な制約との疑念が拭いがたい。
さらに、③「重要経済安保情報」を取得する行為や漏えい行為については重い刑事罰(5年以下の拘禁刑など)を科している。しかし、漏えい又は取得行為について共謀・教唆・煽動した者も処罰対象とされることから、ジャーナリストや市民が情報を取得しようとする場合に萎縮効果を生じる。そのため、国民の知る権利(憲法21条、13条)を不当に制約することになりかねない。
ところで、わが国は、国連自由権規約委員会の第6回(2014年)・第7回(2022年)の審査で、特定秘密保護法について、①特定秘密の対象となる情報カテゴリーを明確にすること、②国家の安全という抽象的な概念により表現の自由を制約するのではなく自由権規約19条3項に則った制約となるようにすること、③公共の利益に関する情報を流布することにより個人が処罰されないことを保障することという勧告を受けているが、対応していない。このような政府の姿勢に照らすと、前述した本法案に対する懸念は、現実的な危険があるものと言わざるを得ない。
4 抗議し撤回を求める
当会は、特定秘密保護法について、国民の人権を侵害するものとして一貫して強く反対してきた。しかし、以上のとおり、本法案の実態は、特定秘密保護法を拡大するものに他ならない。
よって、本法案の閣議決定及び国会提出について強く抗議し、その撤回を求めるものである。
以上
2024年(令和6年)3月12日
岐阜県弁護士会
会長 神 谷 慎 一
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