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弁護士報酬敗訴者負担制度に関する会長声明

2004.07.03

政府は本年3月2日「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」を国会に上程し、訴訟上の双方の訴訟代理人の合意による弁護士報酬敗訴者負担制度の導入を目指したが、衆議院法務委員会での実質審議に入らず、次回国会への継続審議扱いとなった。
 司法制度改革審議会は、平成13年(2001年)6月、司法アクセスの促進をはかるべきとしつつ、他方で弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入すべきであるとした。その後、司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会において、この制度の導入の是非について審議がなされた。
 これに対し、日本弁護士連合会及び当会は、弁護士報酬敗訴者負担制度は経済的・社会的弱者にとっては裁判の利用を萎縮させるもので、司法アクセスを促進させるという司法制度改革の理念にかえって悖るとして、この制度の導入に強く反対してきた。当会においても、これまで反対署名運動、街頭における運動などを通じ、その導入阻止のため国民の理解を得べく活動を続けてきた。
 ところが、司法アクセス検討会の最終段階において、訴えを萎縮させないための導入・非導入訴訟類型の検討を放棄し、原則各自負担という従来の考えを維持しながらも、双方の当事者に訴訟代理人がついて共同の申立がなされた場合に限って敗訴者負担にするというぬえ的な「合意制」による敗訴者負担制度導入の意見が出され、今回の法案はこの「合意制」を内容とする敗訴者負担制度の採用である。
 しかしながら、この「合意制」は、訴訟の現実を見ようとしない空理空論であり、問題意識の解消に全く役立たないばかりか、かえって敗訴者負担制度の弊害が助長されかねない危険が伴なう。というのは、敗訴者負担制度導入論者曰く、正当な理由のある提訴を促進させる一方、不合理な提訴を抑制する効果があるとするところ、そのような意見は抽象論としては理解し得る面もあるが、現実論として、どのような事件においてもどちらに転ぶか分からない不確定部分を多かれ少なかれ抱えており、具体的事件当事者においては萎縮効果のマイナス面が大きく働くことを看過しているからである。特に、合意制においては、一方当事者に正当な理由が強い事件や一方当事者が不合理な主張をしている事件といった敗訴者負担制度導入論者がまさに念頭においている事件において、決して合意が成立することはなく、敗訴者負担制度導入論者が言うメリットの享受は画餅に帰すことになるからである。更に、訴訟上の合意によって敗訴者負担が可能となれば、司法アクセス検討会の共通認識であった、当事者間の裁判外での私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」を記載することによる実体法の側面から敗訴者負担制度が広がっていく蓋然性が高い。このようになれば、消費者、労働者、中小零細企業など契約上弱い立場の人は、訴訟代理人報酬の敗訴者負担をおそれて訴訟を提起することも受けて立つことも躊躇されることになり、司法アクセスを萎縮させることは明白である。
 岐阜県弁護士会は、この敗訴者負担の導入は、たとえ合意制によるものとしても、司法アクセスを阻害する弊害は払拭できるどころかかえって弊害助長になりかねず、その導入を内容とする本法案には絶対反対であり、強く廃案とすることを要求する。
 仮に合意制敗訴者負担制度を導入するとしても、下記の立法上の措置がなされ明確とならない限り、継続審議となっている本法案の廃案を強く求める。
(1) 消費者訴訟、労働訴訟、一方の取引上の地位が他方に優越している事業者間の訴訟においては、「合意制」を不適用とすること
(2) 消費者契約、労働契約(労働協約、就業規則含む)、一方の取引上の地位が他方に優越している事業者間の契約における敗訴者負担条項は無効とすること

2004年(平成16年)7月3日
岐阜県弁護士会
会長 矢島 潤一郎
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